生徒: 先生、中学入試の過去問を解いていたら、溶解度の問題で「ただし、それぞれの溶解度には影響を与えないものとする」っていう決まり文句が書いてあったの。これってどういうこと?
先生: おっ、いいところに気づいたね!それはね、「この問題の部屋の中では、現実のめんどくさいルールは無視して、別腹ということにして解いてね!」という、出題者の先生からの優しいメッセージなんだよ。
生徒: 別腹? あんみつとご飯は別腹だから、ご飯をお腹いっぱい食べたあとでもあんみつは別で食べられる、みたいなこと?
先生: まさにその通り!「ご飯(砂糖)を限界まで溶かした水でも、あんみつ(塩)はそれ単独の限界量まで別々に入れることができるよ」として計算しなさい、っていうのが中学受験のお約束なんだ。でもね……実はこれ、現実の科学の世界では大嘘なんだよ。
生徒: ええっ!? 大嘘なの!?
衝撃の事実!別腹ルールは現実世界で大崩壊する
先生: 現実の世界では、砂糖を限界まで溶かした「飽和砂糖水」の中に塩を入れようとしても、単独のときほどは絶対に溶けないんだ。それどころか、信じられないことが起きる。実際の数字を見てごらん。
| 状態(水100gに対して) | 溶けている砂糖の量 | 溶けている塩の量 |
| それぞれ単独の限界 | 204g | 36g |
| 両方を限界まで混ぜた現実 | 約 120g (激減!) | 約 24g (届かない!) |
生徒: うわ、砂糖が204gから120gにめちゃくちゃ減ってる!
先生: そう。別腹だと思ってあんみつを限界まで大食いしたあとに、強引に白ご飯を詰め込んだら、お腹がパンパンになりすぎて、先に食べたあんみつが口からドバッと溢れ出てきてしまった……みたいな凄惨な状態が、ビーカーの底で起きているんだ。先に溶けていた砂糖が、白い粉としてドバドバ沈殿しちゃうんだよ。
水分子はすき間じゃない!超積極的な「スカウトマン」
生徒: なんでそんなことが起きるの? 私はてっきり、砂糖や塩が水に溶けるのって、水分子と水分子の間の「すき間」にそれぞれの物質が入り込んでいくことだと思ってたんだけど……違ったの?
先生: そのイメージを持ってる人はすごく多いし、全体に広がるという意味では悪くない。でも、ミクロの科学で見ると少し違うんだ。もしただの「空き地(すき間)」に入るだけなら、砂糖のすき間と塩のすき間が別にあれば、お互い邪魔せずに溶け込めるはずだよね?
生徒: あ、そっか。すき間に入るだけなら、溢れて出てくるのはおかしいね。
先生: そう。実際は、水分子はただの空き地じゃなくて、もの凄く積極的な『スカウトマン(作業員)』なんだ。砂糖や塩の結晶は、自分たちの仲間同士でガッチリ手を繋いで固まっている。水分子は、その結晶の周りによったってたかって群がって、力づくで1個ずつ引き剥がして、周りをぐるりと取り囲んでガードしてしまうんだよ。この仕事を化学では「水和(すいわ)」って言うんだ。
先生: 砂糖を限界まで溶かした状態っていうのは、すべての水分子が砂糖のガード任務に出払ってしまって、「働けるフリーの作業員がゼロ」になった状態なんだ。
生徒: そこに塩がやってくると……?
先生: 塩は電気を帯びているから、引きつける力が砂糖より圧倒的に強い。だから塩が「おい、砂糖のガードなんかやめて、俺をガードしろ!」って水分子を強引に奪い取っちゃうんだ。その結果、ガードマンを失った砂糖は水の中にいられなくなって、また仲間同士でくっついて、底に沈んじゃうわけ。つまり、水の中では「限られた水分子の奪い合い」が起きているんだよ。
疑問炸裂!「分子1個を取り囲む」のになんで透明なの?
生徒: ええと、そうすると、砂糖水の中では、砂糖の分子が「1個ずつ」完全にバラバラになって水に取り囲まれている、ってコト? 2つずつじゃなくて?
先生: その通り! 完全に「分子1個ずつ」の単独になるまでバラバラにするのが、化学のいう「溶ける」のゴールなんだ。もし2個や3個くっついたままだったら、まわりから猛スピードで突進してくる水分子たちに割り込まれて、あっという間に1個ずつに引き離されちゃうんだよ。
生徒: うーん、でもちょっと待って。1個ずつの分子が水に取り囲まれると透明の液になるのに、それが2つや3つ集まっちゃうと、なんで透明じゃなくなって濁っちゃうの?
先生: あはは、ごめんごめん! 私の言い方が誤解を招いちゃったね。実は、2個や3個集まったくらいじゃ、人間の目には全く濁って見えないよ。完全に透明なままだ。
生徒: なんだ、そうなの!? じゃあ、どうして溶け残ると白く濁って見えるの?
先生: 濁って見える犯人は「光の跳ね返り(散乱)」なんだ。水が透明に見えるのは、光の波が何にもぶつからずに素通りしているから。砂糖の分子1個(約1nm)は、光の波のサイズ(数百nm)に比べて小さすぎる。だから、押し寄せる巨大な海の波の前に砂の粒1つ粒がポツンと置いてあるようなもので、光の波は何事もなかったかのように素通りしちゃう。2個や3個の塊でも小さすぎて素通りだ。
生徒: じゃあ、どのくらい大きくなるとゴツンってぶつかるの?
先生: 分子が数千万個、数億個っていうレベルでガッチリ集まって巨大な防波堤になったときだ。そうなると、光の波がすり抜けられずに表面でバシャバシャ跳ね返る。その跳ね返った光が目に届くから、人間には「白く濁って見える」んだよ!
納得の瞬間!電気を通す食塩水と、ミッキーマウスの円陣
生徒: なるほど! サイズが全然違うんだね。……あ! ということは、食塩水は電気を通すけど砂糖水は通さないっていう実験も、その「取り囲む」ことと関係があるの?
先生: 大ありだよ! 砂糖は分子の形のまま中性で溶けているけど、塩は水分子に引き裂かれて、電気を帯びた「ナトリウムイオン」と「塩化物イオン」に分かれる(電離する)からね。水の中でこのイオンたちが動くことで、電気が流れるんだ。
生徒: でも先生、電気分解のとき、マイナス極で水素イオン($H^+$)が電子をもらって水素の気体に変わるじゃない? 水素イオンの周りも水分子が取り囲んでガードしてるんだよね? 電子はそんな水分子のガードをすり抜けて、中のイオンに届くの? 電子の方がめちゃくちゃ小さいから、すき間に入り込んで電子をもらうことができる、ってことでいいのかな?
先生: 電子が圧倒的に小さいというサイズ感の直感は、物理として大正解! でもね、電極の表面で起きているドラマはもっとダイナミックなんだ。電子が水の中を一人で泳いですき間を通っていくわけじゃない。イオンが水分子のボディーガードをまとったまま電極に「ゴツン!」と激突して、その最接近した瞬間に、電極から電子が直接ジャンプして手渡されるんだよ。実は食塩水の電気分解では、水分子(ミッキー)自身が電極にゴツンとぶつかって、電子をひったくって水素に化けるんだよ
生徒: へぇー! 電極にぶつかった瞬間の直接手渡しリレーなんだ!
先生: そう。でね、そもそもなんで水分子がそんな風にプラスやマイナスのイオンを引きつけて取り囲めるのか。水分子の形って、何かに似てなかったっけ?
生徒: あっ、ミッキーマウス! 耳のところが水素で、顔の輪郭が酸素の、あの形だ!
先生: そう、あのミッキーマウス型だね! 耳と耳の間の角度は約104.5度で開いている。実はこのミッキー、耳のパーツ(水素側)が「プチ・プラス」、口やあごのパーツ(酸素側)が「プチ・マイナス」っていう電気のウラオモテを持っているんだ。
生徒: ああ! だったら、プラスの電気を持った水素イオン($H^+$)が近づくとき、ミッキーの耳(プラス)の方には反発して行かなくて、逆に口(マイナス)の方をめがけて近づいて、ガチッとくっつくってこと!?
先生: まさにその通り! 完璧だよ! ミッキーの口に $H^+$ がガチッとキスをするように合体する。この合体した姿を、化学では「オキソニウムイオン($H_3O^+$)」って言うんだ。ミッキーが自分の電子のポケット(余っている手)を貸してあげて、ガチッと体の一部にしちゃうんだよ。
生徒: すごい、本当にそうなってるんだ! じゃあ、さっきのナトリウムイオン($Na^+$)が溶けるときも、ミッキーの口の部分が近づくのね。でも、$Na^+$ はプラス1の電気を持ってるのに、ミッキーのプチ・マイナスが1個近づくだけで足りるの? マイナスがたくさん集まって、ミッキーマウスが円を描くような感じになるのかな?
先生: 素晴らしい! 完全に大正解! ミッキー1匹のプチ・マイナスじゃパワーが足りないから、4〜6匹のミッキーたちが、全員口を内側に向けて、中央の $Na^+$ を囲むように綺麗な円陣(球体)を組むんだよ。
生徒: わあ、ミッキーたちが手をつないで円陣を組んで守ってるんだ!

だから、水分子の人数が足りなくなると、もう新しい円陣が組めなくなって「飽和」しちゃうのかな。 先生、でも水分子ってビーカーの中にまだまだ大量にあるよね? なんで足りなくなっちゃうの?
先生: 素晴らしい視点だね!確かに水分子はたくさんある。でもね、水の中では「水分子が結晶をバラバラに引き剥がす仕事」と「バラバラになった奴らが偶然出会って元の結晶に戻っちゃう現象」が、1秒間に何億回もくり返される大激戦を行っているんだ。
先生: 塩という「超強力な電気の持ち主」がやってくると、多くの水分子がその円陣(ガード任務)に付きっきりになってしまって、砂糖の引き剥がし作戦や、砂糖のガードに回せる『元気な水分子の軍勢』の勢力がガタ落ちしちゃう。その結果、引き剥がすスピードよりも、砂糖同士がくっついて元に戻るスピードの方が勝っちゃって、底に沈殿してくるんだよ。
最後の謎:全体で中性なのに、なんで部分的に電気が現れるの?
生徒:……でも先生、最後にどうしても引っかかるところがあるの。水($H_2O$)って、全体としては電気的に「中性(ゼロ)」じゃない? なんでミッキーの時点で、口の方がマイナス、耳の方がプラスなんて電気の性質が出てくるの? 中性なら、全部打ち消されてゼロになってるはずじゃない?
先生: 最高の突っ込みだね! 確かにミッキー1匹が持っている電気の合計プラスマイナスは完全にゼロだ。じゃあ、なんで近づくと電気を感じるのか。それは、電気の「量」はゼロでも、電気の「置き場所」が右と左(耳と口)にパッカリ離れているからなんだ。
生徒: 置き場所が離れてる?
先生: 棒磁石を思い浮かべてごらん。磁石全体としては、N極とS極の量がぴったり同じだから、トータルでは相殺されているよね。でも、別の磁石のN極を、その棒磁石の「S極のすぐ近く」に近づけたらどうなる?
生徒: 奥にあるN極の反発よりも、目の前にあるS極の引き合う力の方が強いから、ガチッとくっつく!
先生: それと全く同じ! イオンがミッキーマウスのすぐ目の前まで大接近したとき、目の前にある「口(マイナス)」からの距離が近すぎて、奥にある「耳(プラス)」の反発よりも、引きつける力が圧倒的に勝っちゃうんだよ。
生徒: ああーっ!! 全体の合計はゼロでも、形が折れ曲がって場所がズレているから、近づいたときだけ磁石みたいに働いちゃうんだ! だから円陣が組めるんだね!
先生: その通り! もしこれが二酸化炭素($CO_2$)なら・・・二酸化炭素は真ん中の炭素がプチ・プラス、両端の酸素がプチ・マイナスなんだけど、真後ろと真ん前に同じ力で引っ張り合っているから、全体としては完全に綱引きが引き分け(相殺)になっちゃう。だから、水分子みたいな強力な磁石の力(極性)は生まれない。水分子が、ちょっとトボけたミッキーマウスの形をして折れ曲がっているからこそ、この世界中のあらゆる物質を上手に取り込んで溶かすことができる、不思議な液体になっているんだよ。
生徒: 中学入試の「影響を与えないものとする」っていうたった一行のウラ側に、こんなにダイナミックなミッキーたちのドラマが隠れてたなんて……理科って、仕組みがわかるとめちゃくちゃ面白いね!


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